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【書評】福祉国家再編に向けたヒント

July 12, 2017

評者 三原岳 研究員
【書評】田中拓道著『福祉政治史ーー格差に抗するデモクラシー』 (勁草書房, 2017)

本書は、高齢化やグローバル化、社会保障費の増加、格差拡大などに直面する欧米各国が自国の福祉政策をどのように改革してきたか、その形成と変容過程を考察しており、日本の社会保障制度改革の方向性を考えるうえで多くの示唆を含んでいる。具体的には、日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデンについて、各国の労使関係と政治制度を中心に福祉国家創設・再編のプロセスを検証したうえで、日本が歩むべき方向性として、①福祉と就労を組み合わせるイギリスの「ワークフェア」型の政策、②個人のライフスタイルに合わせた社会保障制度に改組するフランスの「自由選択」型の政策――という2つの大きな方向性が考えられるとし、政治の責任で福祉国家再編に向けたビジョンを示す必要性を強調している。

具体的には、福祉国家の比較研究で用いられる分類を踏襲し、先進国の制度を、(1)最低限の社会保障制度を特徴とする自由主義レジーム(アメリカ、イギリス)、(2)被雇用者を中心とした職域別社会保険を特徴とする保守主義レジーム(ドイツ、フランス)、そして(3)全住民を対象とした普遍的な社会保障制度を特徴とする社会民主主義レジーム(北欧諸国)の3つに分け、その改革の変容と現状について解説している。

日本は、自由主義と保守主義の混合型と言われているが、完全雇用と規格化された労働・消費、男性が稼ぎ主となる家族モデルを基礎としていた戦後の福祉国家は、グローバル化やライフスタイルの多様化に対応できず変容を迫られている。そのうえで、福祉国家再編に向けた日本の目指す方向性は、「ワークフェア」、「自由選択」の2つがあると論じている。

しかし、長い歴史のなかで社会保障制度は複雑に発展してきた経緯があり、比較研究では医療、子育てなど各論の言及が手薄になりがちである。特に、評者の関心事である医療制度については、(1)自由主義レジームに属するイギリスの医療制度が、(3)社会民主主義に近い普遍的な制度を採用していることもあり、比較の対象から外れることが多い。

そこで、ここではあえて医療制度に絞って議論を深めると、日本は(2)の保守主義レジームに共通する職域別社会保険を採用している。具体的には大企業の社員は健康保険組合、中小企業の社員は協会けんぽ、公務員は共済組合に加入する。

しかし、職域別社会保険は主に男性の正規雇用を想定したシステムであり、会社を退職した高齢者や非正規雇用、女性が漏れやすい欠点をもつ。特に、企業にとって社会保険料は正社員を採用するほど負担が増える点で「雇用税」の側面があり、激しい国際競争に対応しなければならない企業が非正規雇用を増やす方向に働く。

こうした事態に対し、政府は職域別社会保険の対象拡大や正規雇用の促進、女性活躍の推進などに取り組んでいるが、グローバル化や雇用形態の多様化が進むなか、職域別社会保険の欠点を補うには十分な改革と言えないだろう。

その一方、社会保障制度の改革には国民や利益集団などさまざまな利害が絡むため、議論は錯綜しがちである。このため、本書が指摘している通り、制度改革には個別利害を超えた大きな将来ビジョンの選択が必要であり、そのためには政党間の論争や合意形成などに裏付けられた政治的正統性が求められる。

今年の通常国会を見る限り、与野党はスキャンダル批判と揚げ足取りに終始し、その役割を果たしたとは到底思えないが、社会保障制度をどう再構築するか、その際に負担と給付の関係をどう改革するのか考えるにあたり、細かい制度解説に終始する社会保障制度の本が多いなか、福祉国家の生成や再編を俯瞰した本書は示唆に富んでいる。

    • 元東京財団研究員
    • 三原 岳
    • 三原 岳

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