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地域エネルギーの持続的活用に向けて(中)―地域が主役のドイツの再生可能エネルギー事業:経済循環を促す市民エネルギー協同組合とシュタットベルケ

March 15, 2017

平沼 光
研究員

再生可能エネルギーの担い手"市民エネルギー協同組合"

2016年11月4日、国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で合意された「パリ協定」が発効され、世界はいよいよ再生可能エネルギー(以下、再エネ)を中核とするクリーンエネルギーへ大転換を始めることになる。再エネは化石燃料や原子力燃料などを海外から購入して利用する大規模集中型のエネルギーと違い、太陽光や風力など地域に分散する地域エネルギーだと言える。分散型の地域エネルギーという性質上、その利用においては地域住民の理解と協力が必要になるが、足元では各地で太陽光発電施設の設置による地域の自然環境・生活環境や景観への影響など地域トラブルが生じている。

一方、再エネ普及で先行する欧米諸国では、①地域の利害関係者がプロジェクト(再エネ事業)の大半もしくはすべてを所有している②プロジェクトの意思決定はコミュニティーに基礎を置く組織によって行われる③社会的・経済的便益の多数、もしくはすべては地域に分配される──という三つの原則を基にして、地域が主体となって再エネを活用しその利益を地域内で循環させる「コミュニティーパワー」と呼ばれる形での普及が進んでいる。

コミュニティーパワーの形態として代表的なものにドイツの「市民エネルギー協同組合」がある。ドイツでは 19世紀以来”Genossenschaft=仲間でつくる組織”と表記される協同組合に相当する法人形態が存在し、国内の送電網が完備されていなかった頃には協同組合が地域のエネルギー需給を地域単位で担っていた。その後、こうした地域のエネルギーを担っていた組織の多くは民営化の進展により大電力会社に買収されることとなったが、1998年の電力自由化により顧客が電力小売業者を選択できるようになると、再び協同組合の形態をとったエネルギー事業者が市場に参入することになった。そして2000年の再エネ固定価格買い取り制度(FIT制度)の導入により、地域の再エネを活用しエネルギー事業を行うエネルギー協同組合設立の動きが活発化するに至っている。

ドイツにおける協同組合は「組合法」を設立根拠とし、目的、組合規則等を定めた定款を持ち、自己資本は組合員の出資により形成されている。組織は主として、理事会、監査委員会、総会等によって運営されるが、組合員の議決権は出資額に関係なく1人1票であることが特徴的である。また、設立時の資本金は任意に決めることができ、組合員の出資額もより多くの人間が参加できるよう1口50ユーロなど最低出資額が低く設定されていることも特徴である。こうした、地域市民の出資により設立され、その意思決定についても参加者が平等に行う市民エネルギー協同組合のドイツにおける設立数は、前回紹介したようにFIT制度開始直後(2001年)の66件から2015年には1000件に達するまで増加し、再エネの大きな担い手となっている。

消費電力の7倍を再エネで生み出す町

市民エネルギー協同組合を含め地域市民の出資による再エネ事業の先進事例として南部ドイツ、バイエルン州アルゴイ地方に位置する人口 2650人、面積21・34平方キロの農業を中心に営む町、ヴィルトポルズリート町における取り組みが各国からの注目を浴びている。ヴィルトポルズリートは1990年代からエネルギー自立と地域振興のために再エネの導入を始め、その結果、地域で消費する電力の7倍の電力を再エネで生み出すことに成功している。

再エネ普及の成功は売電収入による経済利益を地域にもたらしただけでなく、エネルギーに関連する新たな産業と雇用を創出するとともに税収の増加にもつながり地域の持続的な発展に貢献している。筆者は2015年11月に現地を訪れ調査を行い、さらに本年3月にはヴィルトポルズリートのアルノ・ツェンゲレ町長を招いての講演会(公益財団法人東京財団、日本再生可能エネルギー総合研究所共催)を開催していることから、ここでヴィルトポルズリートについて紹介する。

ヴィルトポルズリートにおける取り組みは、環境問題に関心を持ち自らバイオガスプラントの導入などに取り組み技術的なノウハウを習得していた市民と地域の経済振興策を検討していたツェンゲレ町長の考えが、1998年の電力自由化をきっかけとして”再エネの導入による地域振興”という方向で一致したことから始まっている。”再エネの導入による地域振興”という政策を導入するに当たりツェンゲレ町長は、1999年に再エネを主体としたエネルギーへのシフトの是非を問う町民へのアンケートを行っており、その結果92%の町民から再エネへの転換を支持するという回答が得られている。こうした市民と行政の合意の下、①再エネの活用とエネルギー消費の削減②地域の木材を最大限活用した環境建築の促進③水資源の保護と環境に配慮した排水処理──という環境をテーマにした三つの柱により2020年までに電力の100%を再エネで賄うことを目標とした地域振興のビジョン「2020年ヴィルトポルズリート・イノベーティブ・リーダーシップ・プラン(WIR)」がまとめられた。

こうして地域市民と行政の連携により再エネの普及が進められた結果、バイオガス、太陽光、小水力、風力など多様な再エネの導入に成功している (図表1)

図表1 ヴィルトポルズリートの主な再生可能エネルギー設備

特に、設備の規模が最大で発電の貢献度が高い9基の風力発電は、すべてヴィルトポルズリートの町民が出資して導入された市民風車となっている。風力発電9基の総設備投資費は約33億円(1ユーロ=約124円で換算)で、そのうち約12億円が町民600人により出資されている。風力発電9基による売電利益はすべて町民のものとなり、さらに出資者には年率平均8%という高い配当が還元されている。

また、主に家屋の屋根置きとして設置されている太陽光発電5メガワットのうち約1割は公共施設の屋根に設置されており、その売電益は各種公共サービスに活かされている。バイオガス施設も町民の私的財産でバイオガス施設で発生させたガスを燃料にして熱電併給システム(CHP: Combined Heat and Power)で発電を行っている。こうした再エネ発電の普及により2014年の町の年間電力消費量6323メガワット時に対し2015年はその約7倍の電力を発電するまでに至っている。また、CHPの発電過程で発生する熱は町内に埋設した全長3キロの熱導管を通して町内すべての公共施設と120棟の共同住宅、そして民間企業4社に熱水として供給することにより年間30万リットルの燃料費削減と 850万トンの二酸化炭素(CO 2 )削減にも成功している。

再エネの普及とともに、ヴィルトポルズリートでは地元の木材を活用した省エネ高効率建築物「パッシブハウス(Passive House)」の導入も進められている。パッシブハウスとは、ドイツのダルムシュタット市にあるパッシブハウス研究所(PHI)が提唱し世界的に採用されている建物の省エネルギー・高効率化基準で、年間の暖房負荷(または冷房負荷)が15キロワット時/平方メートル年以下であることなどの基準に合致した建物を指す。ヴィルトポルズリートでは体育館や保育園などの公共施設にパッシブハウスを採用するほか、一般住宅に対してもパッシブハウス建築に補助金を支給するなど、地域におけるエネルギー効率化を積極的に推進している。

ヴィルトポルズリートにおける再エネ普及とエネルギー高効率化の取り組みはドイツ政府からも評価され、 2011年にはドイツ経済省が支援する「再エネと電気自動車の統合化プロジェクト」(IRENE: Integration of Regenerative Energy and Electric Mobility) の実施自治体に指定されている。同プロジェクトでは400キロワットの定置型リチウムイオン電池と電気自動車数十台を導入し町で発電された再エネ電力を蓄電・利用するとともに、一般家庭および分電・送電盤にスマートメーターを設置し効率的な電力運用の実証実験が行われている。2014年から2017年にかけては実証実験をさらに深化させヴィルトポルズリートに再エネを中核にした独立・分散型のエネルギーネットワークを構築するマイクログリッド化の実証実験が進められている。実証実験にはエネルギーマネジメント事業大手の独シーメンス社も加わっており、実証実験で開発された技術はグローバル市場で展開されているとのことだ。

このような取り組みによりヴィルトポルズリートでは再エネの普及による売電益などの収益獲得とともに、地域エネルギーを担うエネルギー関連企業の集積も起こり雇用も生まれている。その結果、町の人口も1999年から2014年にかけて300人以上も増加し税収も増えている。ヴィルトポルズリートの取り組みは地域のローカル資源である再エネを地域市民と行政の連携により活用することで、本来町の外に流出してしまう電力料や燃料代を地域内で循環させ地域を発展させる仕組みを構築したと言え、「欧州エネルギーアワード2014」の金賞を受賞するなど世界から注目されている。

多様な公共サービスを提供するシュタットベルケとは

市民エネルギー協同組合と共に地域に利益を還元することを目的に再エネ事業を担うものとしてドイツのシュタットベルケ(Stadtwerke) がある。シュタットベルケとは再エネ事業だけではなく、ガス事業や熱供給事業、コミュニティーバス運営事業、水道事業などさまざまな公共サービスを幅広く担い、地域住民に提供する地域公共サービス公社と呼べる組織である。シュタットベルケは主に自治体の出資により設立され地域の公共サービスを担うものであるが、自治体からは独立した体制として存在する。自治体の出資率もさまざまで100%自治体出資によるものや自治体と地域の住民・企業の共同出資によるものなどがある。いずれにしても大手電力会社が不特定多数の出資者(株主)を持つのに対し、シュタットベルケは地域の自治体、住民、企業など地域の人間が出資者であり利用者でもあることから、シュタットベルケの再エネ事業は地域の利益を優先するコミュニティーパワーと言える。市民エネルギー協同組合が地域の再エネ活用などエネルギー事業に特化した事業を行っているのに対し、シュタットベルケは再エネ活用事業だけでなく多様な公共サービス事業を提供している点も大きな特徴である。

こうしたシュタットベルケはドイツにおよそ900社存在し、電力市場に占めるシェアは自己電源ベースの小売りシェアが20%程度、市場調達を含む小売り全体では50%弱を占めている。筆者が2015年11月に訪れたドイツ、オーストリア、スイスの国境に位置するボーデン湖に程近い人口3万500人のラドルフツェル・アム・ボーデンゼー市にあるシュタットベルケ・ラドルフツェル社(以下、ラドルフツェル社)は出資の51%を市が出資し、残りの49%をミュンヘンに本社を置くテューガ株式会社が出資をして設立されている。テューガ株式会社は市外の会社であるが、ドイツ内のシュタットベルケが集まり出資して設立されたシュタットベルケを支援する会社で、シュタットベルケへの出資や業務提携などを担う会社である。ドイツではテューガ社の他にもシュタットベルケを支援する会社が存在し、シュタットベルケの活動を後押ししている。

ラドルフツェル社では、電力事業、ガス事業、水道事業、熱供給事業、インターネット事業、市内バス事業の六つの公共サービスを提供している。電力事業では家庭用太陽光発電サービスの提供のほか、ラドルフツェル市のメッギンゲン村(人口853人)で地元産のトウモロコシと家畜由来の液体肥料からバイオガスを生成し、発電と熱供給を行う再エネのモデル地区を構築するなど再エネの活用にも積極的に取り組んでいる。シュタットベルケの強みは、ラドルフツェル社のように多様な公共サービスを提供することで、どれか一つの事業の業績が悪化しても全体として採算を合わせることで事業の安定性を高めている点にある。ラドルフツェル社も六つの事業全体として利益を上げてきている (図表2)


図表2 シュタットベルケ・ラドルフツェル社の業績概要(単位:1000ユーロ)

出典:シュタットベルケ・ラドルフツェル社プレゼンテーション資料(2015年11月4日)を翻訳

ドイツのハイデルベルク市(人口15万人)が 100%出資して設立されたシュタットベルケ・ハイデルベルク社(以下、ハイデルベルク社)も多様な事業展開により地域利益をもたらしている。ハイデルベルク社の資本金はおよそ6000万ユーロで傘下にはハイデルベルク社が出資するエネルギー公社、ネットワーク公社、省エネ・環境関連公社、交通インフラ・登山鉄道運営公社、駐車場運営公社という子会社となる五つの公社を抱えている。さらに傘下の公社はサービス内容に応じてハイデルベルク社の孫会社となる公社を設立し地域住民にサービスを提供している。例えば、ネットワーク公社では電力事業、ガス事業、水道事業、熱供給(暖房)事業、光通信事業のネットワークサービスを提供しているが、水道、熱供給事業に関連して公共プールを運営する公社を設立して、より地域に密着したサービスを展開している。こうして多様な公共サービスを担う公社が設立されることで地域に雇用が創出されるとともに、公社に対して支払われる利用料は公社の運営資金ともなり、公共サービスという形で地域住民に還元され資金の地域内循環が行われている。また、エネルギー事業で得た収益を交通インフラ事業で活用するなど、一つの事業で得られた収益は同一事業だけでなく他の事業の運営資金としても活用されており事業の安定性が確保されている。

シュタットベルケの活動が地域貢献を促しているという、ハイデルベルク市民の理解も深い。エネルギー公社の電力販売内容を見てみると、その70%が再エネにより賄われており地域における温室効果ガス削減に貢献している。エネルギー公社は大手電力会社よりも1~2%高い値段で電力販売をすることもあるが、地域への貢献を重視する住民により市内の84%の需要家がエネルギー公社から電力を購入していることも報告されている

日本版市民エネルギー協同組合、シュタットベルケの可能性

このように欧州の市民エネルギー協同組合やシュタットベルケは自治体や住民、地域の企業という地域に密着したプレーヤーが高度に連携し地域のローカル資源である再エネを活用して地域振興を促していることが分かる。日本では公共施設の屋根に太陽光パネルを置くだけでも公共施設の目的外使用となりハードルが高いものになってしまうが、果たして日本において市民エネルギー協同組合やシュタットベルケのような地域に密着した再エネの担い手を創出することは可能であろうか。実は、日本においても市民エネルギー協同組合の草分け的な担い手が育ちつつある。次回は日本における地域と自治体の連携による再エネ事業の事例を紹介するとともに、その創出条件を探る。

「地方創生とエネルギー自由化で立ち上がる地域エネルギー事業─ドイツ・シュタットベルケからの示唆と地域経済への効果─」(JRIレビュー2015 Vol. 7 No. 26、日本総合研究所創発戦略センターシニアマネジャー瀧口信一郎)

時事通信社『地方行政』2016年12月5日号より転載

(上)地球温暖化対策本格化で重要度増す地域エネルギーの活用―再生可能エネルギー普及における日本の課題とコミュニティーパワーという考え方

(4月掲載予定)(下)地域主体による再エネ活用事業の創出―必ずしも要件とはならない社会関係資本の蓄積


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