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アメリカ大統領選挙 UPDATE 6:現地報告:内部批判と複雑な次期政権観(民主党)、トランプとの距離感と期待の混在(共和党)

December 14, 2016

渡辺将人 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授

大統領選挙終了直後、民主党、共和党の議会関係者、クリントン、トランプの両陣営の関係者と現地で網羅的に面会した。両党内の「空気」のスケッチを一部試みたい。

まず民主党側の内省であるが、第1に、候補者要因の再考である。豊富な「経験」と引き換えに政敵とスキャンダルも多いジレンマに輪をかけて、ヒラリーと周囲の「ヒラリー・ランド」が、女性やLGBTの権利などを重視する文化的リベラル路線に傾倒し、白人労働者を失ったことには、ニューデモクラット派からの不満が意外に強い。「アメリカ進歩センター」への批判も声もある。

単に「好感度の低さ」に還元される「人物問題」ではなく、クリントン夫妻が政策では一枚岩ではない、クリントン政権「再定義問題」である。「ニューデモクラット」に対して、「ヒラリーイズム」は何だったのか。幻のヒラリー政権と「第二次クリントン政権」「オバマ政権3期目」の違いが曖昧なまま終わったとの総括は概ね一致している。

TPP反対に旋回し、夫の政権やNAFTAも堂々と誇れなかった。共和党主流派のインサイダーは「NAFTA合意はビル・クリントンのせいだとトランプは吹聴したが、本当はブッシュ父。しかし、ヒラリーは反論しなかった。ビルを論じることを極度に恐れていたように見える」と指摘する。

また、ヒラリー陣営幹部はこう総括する。「トランプ陣営は少なくともコアな支持基盤に対してはトランプ自身について語った。そして主流派向けに反ヒラリーのメッセージを組み合わせた。しかし、ヒラリー陣営はすべてが反トランプの強調になってしまった。彼女の情熱や具体策を語らなかった。だが、政策で不一致があるサンダース支持者を囲い込むには他に選択肢がなかった」。

第2に、キャンペーンをめぐる内部批判だ。まず、ビッグデータの問題だ。オバマには通用してもヒラリーには効かなかった、候補者次第でデータの正確さに違いがでる問題の精査が党内で始まっている。中西部の地上戦の梃入れでは、資源投入先に見誤りが生じていた。とりわけウィスコンシン州の軽視が目立ち、アイオワ、オハイオなど勝率が低い州への資源投下を本部は命じていた。

そしてアウトリーチ戦略の問題である。全国委員会委員長交代で揺れ、DNCの機動性は最悪となった。マイノリティ向けのアウトリーチでは、カトリックやリベラル系福音派向けの信仰アウトリーチが空白となり、DNCが本腰を入れて梃入れしたのは投票1週間前という証言もある。陣営本部がソーシャルメディアの世論形成向けに資金を回していなかった問題、民族別、人種別などを横断する「争点別」(2008年でいえばイラク反戦)アウトリーチ不足も指摘された。「ラストベルト」だけでなく、アパラチア山脈沿い「コールベルト」が、カトリック票49%という民主党候補として1988年以来の惨敗を生んだとの指摘もあった。

FBI捜査の影響も一致した見解だが、「ウォーターゲート事件期以降の記者は巨悪を暴くことに使命感を持ちがち。論説はヒラリー支持でも、現場記者はメール問題で詳報を続けた」ことが意外に不利に働いたとの指摘もあった。ロシア介入で露呈した外国勢力の選挙介入も議論となりそうだ。

TPP離脱、NAFTA再交渉、インフラ投資には賛成であるリベラル派を抱える民主党のトランプ政権観は複雑だ。下院民主党幹部は深刻な2点としては、気候変動の後退と、最高裁の保守化と指摘する。オバマケア、不法移民送還、金融規制改革法の撤廃などでは、共和党の穏健派から造反者を引き出す議会工作を続ける構えだ。

共和党内のトランプとの感情的な距離感は興味深い。筆者は、選挙翌週、州議会議員、郡委員、州委員長らが出席するアイオワ州東部共和党の祝勝夕食会「アイゼンハワー・ディナー」に参加させてもらったが、トランプのプラカード、赤いキャップ姿は皆無、登壇者もトランプについて言及せず、演説の中心は「大統領府、連邦議会両院を共和党が握った歴史的チャンス」「最高裁保守化で人工妊娠中絶を違法に」が大半を占めた。デザート後の献金オークションで、ようやく赤いキャップが2つだけ出品されたが、挙手した者はいなかった。来賓のアイオワ州農務長官とも対話したが、TPPに期待をかけていた農業州のトランプとの意識の谷間は消えていない。ペンス次期副大統領への安心感がトランプ支持の基盤をなしている様子がうかがえた。

他方、党員集会前から継続的に接触してきた同州のトランプ支持者の会合にも出たが、メキシコ国境「壁」建設は「比喩である」としてトランプの公約を文字通りに詰めない姿勢は興味深かった。配管技師から叩き上げで建設会社を起業した早期からのトランプ支援者は、共和党員ではなく「保守系無党派」を自称するが、地球温暖化を信じていないもののエネルギーコストには敏感で電気自動車は素晴らしいと語り、TPPは「米国の制御が及ばなくなる」から反対だが「二国間協定は推進すべき」としていた。国民皆保険には賛成でオバマケアは廃止ではなく修正を望み、移民は不法移民のみを問題視するが、ムスリムは「文化的な同化が困難」だから反対という。

面会に同席した従業員もトランプ支持者だったが、彼らの多くは配管工の労働組合のメンバーだ。トランプ政権は、こうした従来の「保守」とはズレも目立つコアな支持基盤を抱えつつ、共和党の「祝勝」パーティで次期大統領を心から賞賛しない党内の自由貿易主義者と連携していく舵取りを迫られている。当面、コアな支持層はロビイスト排除、党主流派は政権人事における横断的な配慮を評価している。

    • 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授
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