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要らない土地が“所有者不明”に人口減時代の「受け皿」作れ

September 6, 2017

研究員
吉原祥子

地方から人が減り、地価の下落傾向が続くなか、所有者の居所や生死が直ちに判明しない細切れの土地が点在し、地域の土地利用を阻んでいく――。いわゆる土地の「所有者不明化」問題が、災害復旧や空き家対策を進める上で支障となる事例が各地で報告されている。
2016年4月に発生した熊本地震の被災地でも、所有者や相続人に連絡がつかず、地震で傾いた空き家の解体ができない事例が熊本市だけで50件を超す(『西日本新聞』17年6月28日朝刊)。山形県鶴岡市では、15年に市内の空き家2806棟について所有者の意向調査を行ったところ、479件は所有者不明などでそもそも調査票が送付できず、また宛先不明で返送されたものも142件あった(「鶴岡市空き家実態調査結果について」16年7月15日公表)。

なぜ、こうした問題が起きるのだろうか。土地所有者の所在や生死のゆくえがわからなくなる大きな要因に、相続未登記の問題がある。

復興・活用に膨大な手間

一般に、土地や家屋の所有者が死亡すると、新たな所有者となった相続人は相続登記を行い、不動産登記簿の名義を先代から自分へ書き換える手続きを行う。ただし、相続登記は義務ではない。名義変更の手続きを行うかどうか、また、いつ行うかは、相続人の判断に委ねられている。
そのため、もし相続登記が行われなければ、不動産登記簿上の名義は死亡者のまま、実際には相続人の誰かがその土地を利用している、という状態になる。その後、時間の経過とともに世代交代が進めば、法定相続人はねずみ算式に増え、登記簿情報と実態とがかけ離れていく。
法務省が全国10地区を対象に行った調査によると、50年以上にわたって登記の変更がなく、相続登記が未了となっているおそれのある土地は、大都市では6.6%、中小都市・中山間地域では26.6%にのぼっている。相続登記が義務ではなく任意であるため、こうした状態自体は違法ではない。
しかし、その土地を新たに利用する話が持ち上がったり、第三者が所有者に連絡を取ろうとする場合に支障となる。不動産登記簿上の何十年も前の情報から相続人全員を特定し、同意を取り付ける必要があるためだ。戸籍や住民票をたどるという膨大な作業が必要になる。
図1 は13年に人口約1.5万人の自治体で実際に作成された相続関係説明図である。県道を作る際に用地取得の対象となった土地の一角に、3代にわたり相続登記がされていない土地があった。担当者は、面積わずか192平方メートル(約58坪)のこの土地について約150名に及ぶ相続人を特定しなければならなかった。
相続人のなかに所在不明や海外在住などで連絡のつかない人が一人でもいれば、手続きのための時間や費用はさらにかかることになる。


図1 3代にわたり相続未登記の土地の相続人は約150人

出所:東京財団 「国土の不明化・死蔵化の危機」 2014年


実は地域レベルで見るとこうした問題は必ずしも新しいものではない。農林業では、登記簿上の名義人が死亡者のままの山林や農地が、土地の集約化や耕作放棄地対策の支障となる事例が各地で慢性的に発生してきた。自治体の公共事業の用地取得でも、同様の問題は起きていた。

表面化しにくい弊害

しかし、こうした問題の多くは、関係者の間で認識されつつも、あくまで農林業あるいは用地取得における実務上の課題という位置づけにとどまってきた。国土交通省や法務省など関係省庁が複数にわたり、個人の財産権にもかかわるこの問題は、どの省庁も積極的な対応に踏み出しづらいこともあり、政策議論の対象となることはほとんどなかった。
それが近年、東日本大震災の復興の過程で問題が大規模に露出し、空き家対策において都市部でも表れたことで、広く政策課題として認識されるようになったのだ。
筆者らが14年に全国1718市町村および東京都(23区)の税務部局を対象に行ったアンケート調査では、557自治体が「土地の所有者が特定できないことによって問題が生じたことがある」と回答している。(詳しくは拙著 『人口減少時代の土地問題』〈中公新書〉 参照)。
空き家の放置や農地の耕作放棄を、所有者による「管理の放置」と呼ぶとすれば、相続未登記によって死亡者の名前が何十年も登記簿に残り続けるのは、所有者による「権利の放置」ともいえる。この問題は普段はなかなか表面化しない。空き家対策を進める、あるいは災害が起きるなどのきっかけがあって初めて、その実態が見えてくる。
こうした状況について、制度の面でどのような課題があるのだろうか。
そもそも日本では、土地の所有・利用実態を把握する情報基盤が不十分である。不動産登記簿、固定資産課税台帳、農地台帳など、目的別に各種台帳は作成されている。だが、その内容や精度はさまざまで、情報を一カ所で把握できる仕組みはない。国土管理の土台となる地籍調査(囲み参照)は、1951年の調査開始以来、進捗率はいまだ5割にとどまる。
各種台帳のうち、不動産登記簿が実質的に主要な所有者情報源となっているものの、前述のとおり権利の登記は任意である。そもそも不動産登記制度とは、権利の保全と取引の安全を確保するための仕組みであり、行政が土地所有者情報を把握するためのものではない。登記後に所有者が転居した場合も住所変更の通知義務はない。
司法書士の間からは、「農地・山林はもらっても負担になるばかりで、相続人の間で押し付け合いの状況」とか「最近、相談者から『宅地だけ登記したい、山林は要らないので登記しなくていい』と言われるケースが出てきた」といった声も聞かれる。
人口減少に伴う土地需要の低下や人々の土地に対する意識の変化を考えると、今の仕組みのままでは、今後、相続登記が積極的に行われるようになるとは考えにくい。
さらに、前述の税務部局アンケート調査からは、評価額が低く固定資産税が免除される「免税点未満」の土地について、所有者や相続人の特定を行わない自治体が少なくないこともわかった。納税通知書を送付する必要がないためだ。
また、「課税保留」を行っていると回答した自治体も200あった。これは、納税義務者の死亡や所在不明などにより課税対象者がわからず、所有者を探すだけの費用対効果も見込めないため、やむなく課税対象からいったんはずすものだ。台帳上の所有者情報は更新されないままになる。
つまり、資産価値の低い土地は、所有者による「管理の放置」「権利の放置」に加え、一定の目的にかなっているとはいえ、行政による「情報の放置」も進むおそれがある( 図2 )。

図2 土地にまつわる三つの放置

出所:筆者作成

行き場のない土地

では、どのような対策が必要だろうか。
今後、土地の「所有者不明化」問題の発生・拡大を防ぐために、最も重要かつ喫緊の課題が相続登記であることは、多くの関係者が指摘するところだ。手続きの簡便化や、専門家による手続き支援策の拡充を図る必要がある。
さらに、登記記録が古いままの土地が地域の土地利用の支障にならないよう、難しい課題ではあるが、一部の相続人の同意に基づいて利用権設定できるようにするなど、権利に関する法制度の見直しが避けては通れない。
第二に「所有者不明化」問題の対策として重要なのは「受け皿」作りである。人口が減少するなか、使われない土地が増加しているからだ。相続によって田舎の土地の所有者になったものの、管理も売却もできず先の見通しが立たない、という人は今後増えていく。
前述のアンケート調査では、住民からの土地の寄付希望の実態についても尋ねたところ、所有者が寄付を申し出る理由として、「管理ができず不要のため行政に受け取ってほしいなど自己都合による場合がほとんどである」といった記述が見られた一方、自治体が住民からの土地の寄付を受け取るのは、道路用地など公的利用が見込める場合にほぼ限定されていることがわかった。「使っていない公有地を払い下げ等で処分しているので寄付は受け取らない」とする回答が目立った。
国も原則として行政目的で使用する予定がない限り、土地の寄付は受け付けていない。実際、相続財産管理制度に基づき国が受け取った土地・建物は、15年度は土地が37件、建物は2件のみである。
本来、所有者が維持管理しきれなくなった土地は、できれば「皆のもの」に戻したり、新たな売買・利用方法をあっせんできる仕組みがそろっていることが望ましい。だが、現状、そうした選択肢は限られている。利用の見込みがなく、買い手もつかない土地は、手放そうにも、「行き場がない」のだ。
こうした土地が使われないまま放置されることで、物理的な荒廃や、相続未登記による権利関係の複雑化が進んでしまう。
具体的な対策としては、所有者が管理できずに持て余す土地の寄付先として、土地の荒廃や「所有者不明化」を回避するための最低限の管理を行う非営利組織を各自治体に設置することが考えられる。

非営利組織が保全

先駆的な事例として近年、注目されているのがアメリカのランドバンクである。管理放置された土地や老朽建物を積極的に取得し、売却やリースなど地域のニーズに合った形で有効活用を支援する、あるいは、保全を行う公的な媒介組織である。
日本の地域にそのままあてはめられるものではないが、まずはモデル地区を作り、民間の専門家の知恵を活用しながら、実験的な取り組みをいくつかの地域で試行してみることからスタートするのが現実的だろう。国による財政支援策をはじめ、権限と管理責任の範囲の明確化などが必要である。
こうした対策が急がれるのには理由がある。それは今後、遺産を相続する人が誰もいないケースが増えるおそれがあるからだ。相続人が全員、相続放棄をした場合のほか、独身で兄弟がおらず、両親も亡くなり、戸籍上で相続する人が全くいないケースなどが該当する。生涯未婚率が上昇するなか、珍しいケースではなくなっていくだろう。
民法では「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」とされる。だが、残された土地が自動的に国のものになるわけではない。相続財産管理制度に基づいて清算手続きを行う必要がある。手続きがなされなければ、そのまま、誰も権利を主張しない「見捨てられた土地」となる。
現在の日本の土地制度は、明治の近代国家成立時に確立し、戦後、右肩上がりの経済成長時代に修正・補完されてきたものだ。地価高騰や乱開発など「過剰利用」への対応が中心であり、過疎化や人口減少に伴う諸課題を想定した制度にはなっていない。土地の「所有者不明化」問題とは、そうした現行制度と、人口減少・高齢化という社会の変化のはざまで拡大してきたものである。構造的な課題であり、問題を一度に解決できる万能薬はない。
迂遠なようではあるが、人口減少を前提とした国土保全の理念を打ち立て、明治の時代から築き上げられてきた制度を生かしつつ、国としての共通基盤の上に、それぞれの地域になじむ方法を一つひとつ作っていくことが必要だ。

この問題は自然消滅しない。先送りするほど権利関係は複雑化し、解決コストは膨らんでいく。
今後、土地を適切に保全し次世代へ引き継いでいくために、どのような仕組みを構築していくべきなのか。各地で広がる土地の「所有者不明化」は、人口減少時代における土地制度のあり方という大きな課題を提起している。

都市部のもう一つの土地リスク 7割超が「境界未確定」

東京はじめ都市部の宅地は土地の資産価値が高いため、農林地に比較すると所有者不明の発生率は低い。所有者にとって管理する意欲や相続登記を行うインセンティブがあるからだ。だが、都市部には、もう一つのリスクがある。それが「地籍調査」の未了である。
地籍調査とは、市町村が主体となって実施するもので、土地の区画ごとの面積、境界、所有者などを確定し地図を完成させるものだ。いわば「土地の戸籍」を整備する事業であり、国土管理の土台といえる。

調査が「寝た子を起こす」
ところが、国土交通省によると、2016年度末時点で、調査が完了したのは調査対象面積(全国土から国有林および湖沼などの公有水面を除いた面積)の52%。都道府県別では、実施済み面積が10%未満なのが2府県(京都、三重)、10%台が9府県(大阪、奈良、愛知、岐阜、神奈川、千葉、石川、福井、滋賀)もある。都市部の多い府県が目立つ。東京都も23%という低さである。
土地の用途別に見ると、地籍調査が済んでいる面積は、宅地は54%、農地は73%、林地は45%となっている。都市部の人口集中地区では24%しか調査が完了していない。
背景には、調査の人員や十分な予算の確保が難しいことがある。加えて、地籍調査によって、隣家と境界線について認識のずれが明らかになりトラブルになるなど、場合によっては「寝た子を起こす」ことになりかねないことがある。
日常的な土地取引では、地籍調査が未了でも、売買の対象となる土地の面積さえわかれば、売買契約は進められる。多くの場合、売り主が費用を負担して現地の測量を行い、実測面積に基づいて売買契約を結ぶ。そのため、調査が済んでいない問題を実感する機会は限られる。
だが、地籍調査が進んでいないことは、地域の再開発や防災のためのまちづくりなど、広域で土地を利用する場面で足かせとなる。用地取得の交渉では、対象となる土地の境界や面積などの現況について、対象の土地所有者や関係者の全員の合意を必要としているからだ。
東日本大震災の被災地の一つ、岩手県大槌町では、地籍調査が未了であった。そのため、津波で被災した住宅の高台移転用地の事前調査に4年近くが費やされている。今後、首都直下型地震や南海トラフ地震が、地籍調査の進んでいない都市部を襲えば、復興の大きな足かせになることは想像に難くない。

2017年8月15・22日合併号『週刊エコノミスト』より転載

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